dialogue in the dark に行って来た。
博報堂大学の「幸せのものさし」に取り上げられていて前々から興味を持っていたけれどなかなか知り合いの都合が付かず、今日が念願のイベント初参加だった。
一緒に行ったのは、イギリス人の友達。
事前にその旨を伝えておいたおかげで、アテンドは日英仏がしゃべれるトリリンガルのトニーさんがおこなってくださった。
荷物、貴重品、手持ちのものはすべてロッカーに入れて、準備万端。
入り口のお姉さんから簡単な説明を受けて、暗闇の中に入っていく。
最初はランプの光程度の光量がある部屋だ。
そこでアテンドのトニーとご挨拶。
暗闇の中で安全に楽しむために、自分の身長にあった杖を一杖ずつ持たされ、使い方の説明を受けた。
白い杖。視覚障害者の方が道を歩くときに持ち歩くもの。
だが今回の場合は逆だ。彼らの世界に初めて踏み入れる不慣れなのは僕たちなのだから。
トニーは杖なんて持たないで、僕らをゆっくりと闇にならしていく。
まるで、お風呂が初めての赤ん坊をゆっくりと湯船につけるように。
怖くないよ、だいじょうぶだよ、と。
カーテンを一枚捲るたびに闇が深くなっていく。
お互いがまだうすぼんやりと見える中で、
僕らは自己紹介をし合った。名前とあだな。
一通りの自己紹介が終わった後で、トニーは部屋の光を少しずつ絞っていった。
闇だ。それは唐突なまでに真っ暗だった。
さっきまでの光なんてはじけとんで、隣にいる友達の存在も希薄だった。
トニーは手を握り合ってみんなで円を作ろうと言う。
手をちょっと伸ばせば彼らがいるのに、触れなければそこにいるのかいないのかよくわからない。試すようにちょっと手を伸ばしただけで、誰かの手に触れた。こわごわと指を縮ませ、握る。
友達ならいざ知らず、全くの赤の他人の手を掴むのは、何となく気まずかった。
僕が知っているのは、彼らの名前と、ほんのちょっと光のもとで見えた姿形だけなのだ。
みんなで作った握手の輪をさらに縮めてみよう。
トニーの声に、皆従う。
お互いの肩が触れて、呼吸が近くなった。
だれかの汗のにおいがした。
輪の中心がメンバーの体温によってぬくまり、ぼんやりとした熱量を帯びている。
トニーがカーテンを開ける。しゃらしゃらと布が擦れる音がした。
さっと森のにおいが、鼻腔をなでた。なんなんだ?どこにいくんだ?
さぁいくよ。
一歩踏み出した場所は森だ。たぶん。
木々の香ばしいにおい、そして土の熟れたようなにおい。
鳥の声や虫の声が聞こえる。
足の裏の感覚が柔らかかった。
僕らはまだ手を握り合っている。
トニーはグループの結束力を試すために、まずはトンネルをくぐってみようと言った。
彼は男子だけを呼び寄せて、トンネルの大きさ/形を教えた。
僕も含め、女子はその様子を聞いている。
さっきまで両手で握っていた友達の手が離れていった。さっき知り合ったばかりの子と繋がっている手だけがやけに生々しく、しかし孤独だった。
ぽつんと暗闇の中にいるのが怖かった。
この手の温かさが誰かに繋がっているのだと信じたくて、声をかける。返答がかえってきて、少しほっとする。
トンネルを調査し終えた男子たちが近づいて、離れていたものが繋がった。
さっきまで他人だった、ろくに顔も覚えていない子が僕の手を掴む。声をかけてくる。
ほっとした。
近くにいるよ。大丈夫だよ。
チームが協力して、互いの存在を確認しながら、暗闇のトンネルを抜けたとき、僕は自分が抱いていた恐怖が一切なくなっていることに気づいた。
視覚をのぞく感覚が、普段抑圧されている穴の中からうごうごと這い出てくるように、いろんなものを感じようと躍起になっている。
そこには自由への喜びと情報に対する渇望があった。
暗闇の中の仲間たちに対する親近感が濃厚になった。
肌がふれあうことの気持ちよさ、安心感があった。
その後の冒険は、普段視覚によって抑圧されている感覚、喜ぶを十二分に堪能できる内容だった。
闇の中にいればいるほど、僕は様々な制限から解放されていくように感じた。
興味は尽きず、いろんなものを触り、いろんなもののにおいを感じ、いろんな音を聞きたいと思った。そして、それを仲間と一緒に共有したいと思った。
約一時間半に及ぶ暗闇の探検を終え、僕は不思議なことに気づく。
闇に入る前は希薄だった仲間たちの感覚が、今では確かだった。
そして仲間たちが存在しているのと同じくらいの確かさで、僕は存在していた。
それがカーテン一枚を捲ってしまうともうおしまいになるのだろうか。。。
そう思ったら残念でしょうがなくなった。
まだこの闇の中で、あたたかな親近感の中に埋もれていたい、と。
光の世界に出てきたとき、僕は何かめまいのようなものを感じた。
いろんなものをなくしたような、そんな気もした。
視界が開けてしまうと、僕らの間にあったぬくもりはそっと身を引いたように感じた。
光が当たって、個々の形が形成されると同時に、何か、薄い膜が僕ら個々の周りをうっすらと覆うような。。。それは個のもつ質量が自らの形を思い出し、自他の区別を明確に線引いたからなのか。。。
暗闇というメディアがあったからこそ、すぐに構築できた感情/思いがあったのだろう。
光の世界だと構築するのが難しいなにか。。。
もう一度あの場で得た親近感に浸れたら。。。
そう思いながら、一人睡眠の闇に溺れる。
おやすみなさい。